「……はい」


知ってます、と。私の頭の上で話すので、伊波くんの息が耳にかかる。


「伊波くん、くすぐったい」

「はい」

「いや、はい、でなく。くすぐったい」

「はい。すみません」


すみませんと言いつつ、退けてくれる気配がない。


「……あのねえ」


ジト目を向ける私の言葉を、伊波くんはにっこり笑って押し留めた。


「麻里」

「ん?」

「僕も、好きですよ」


これまた緩く、へにゃりと笑うから。


「……知ってる」


しょうがないなあ、と目を閉じてもたれかかった。


しばらくそうしてまったりしていたのだけど、ぽん、と軽い音が鳴った。


出所は私のスマホだ。


いつまでも一緒にいたいけど明日は仕事だし、忘れて乗り過ごしては困るから、終電の時間が迫ってきたらお知らせするように設定しておいたのだった。


「伊波くん」

「はい」


呼びかけに絶対に返事をくれる、律儀な彼氏さんの顔を見上げる。


「ごめん。私、帰らないと」

「えっ」


目を丸くした伊波くんが、途端に悲しげに眉を下げた。


「麻里、帰っちゃうんですか……? 今日は泊まっていくものだとばかり」

「ごめん、明日も仕事なの」


休日出勤はちょっと悲しいけど、まあ手当が出るからいいんだ。頑張れる。


それより、問題は伊波くんだ。


しょぼーん、と効果音が聞こえてきそうなほどうなだれて切なげな顔をしている彼氏さんに、ごめんね、ともう一度謝まる。


「明日、また来てもいい?」

「もちろん。それは嬉しいですけど……帰したくない、です」


……あ。きた。伊波くんスイッチ入った。