プロポーズは金曜日に

「伊波くん、明日空いてる? ぶどう食べに行ってもいい?」

「空いてますよ。でも明日はいつもより少し遅くなりそうなので、もし僕より早かったら入っちゃっててくださいね」

「はーい」


合鍵はお互いに渡してある。


夜は、遅いときは特に、先に来た方が何かしらの飲み物や食べ物を用意するのが習慣だ。


「今週末は三日とも空いてますか?」

「うん。土曜日はうちに来る?」


そういうことかな、と聞いたら、伊波くんが頷く気配がした。


「行きたいです。麻里の家のぶどうも食べたいですし」

「うん。日曜日はどうする? お出かけする?」

「ああ、いいですね。出かけましょうか」

「じゃあ映画見に行きたいな。今話題のやつ」

「いいですね。チケット取っちゃっていいですか?」

「うん。お願いします」


伊波くんは映画館のアプリをダウンロードしているので、映画を見るときの諸々の手続きは、伊波くんにお任せしちゃった方が早い。


お願いされました、と笑った伊波くんにつられて、ふふふ、と私も笑った。


伊波くんといると、よく笑ってしまう。


いつの間にか笑いがもれている。違和感なく、自然に。柔らかに。


でもそれは、箸が転がっても笑う女子高生みたいに、くすくすけらけら、何でも面白おかしく感じるからではなくて、幸せだからだ。


伊波くんが笑うと、伊波くんがいてくれると、じんわり、ふわりと心が浮いて、思わず笑みこぼれるような温かさを感じるから。


そうしてこぼれる優しくて自然な笑いを、幸せと言うのだと思う。