「麻里」

「ん?」

「好きですよ」

「……ん」


伊波くんはよく、好きです、と口にする。


好きですと言ってくれるときは、変になってキメ顔をするときにある、強張って不慣れで頑張っている感じはしない。


ふわりとこぼれたみたいな、自然な柔らかさ。


それだけでいいのにな。


伊波くんが伊波くんであれば、何もいらないのに。伊波くんらしさがあれば充分なのに。


だって、伊波くんから好きだと言われるだけでこんなに穏やかに胸が温かくなる。


私が好きなのはクールで美しい、いかにも完璧なデキる人なんだけど、一緒にいたいのは穏やかで優しい、いつも微笑んでくれるような——まさに伊波くんみたいな人だ。


別に、伊波くんが好きじゃないってことではなくて。


好きだ。好きなんだけど、多分、そう、好みと愛は違うのではないかと思う。


恋と愛に差分があるように、好きと愛にもきっと差分があって。


そして私は、伊波くんがいつでも笑っていてくれたらそれでいいって思っているから。

優しい伊波くんの微笑みを見たら、それだけでその日が素敵に色づくから。


だから本当に、伊波くんが伊波くんでいてくれたら、それだけでいいのにな。