ぱちくり、瞬きをする。


伊波くんが何かありますかと聞くということは、通常最大級の謝罪を意味する。


すみません、に付随して、何かありますか。


つまり、すみませんと謝るだけでは足りない、と伊波くんが判断したということだ。


伊波くんは別段、物で釣ろうとか物で清算できる程度だとか思ってるわけじゃない。


何かありますか、を安売りするほど機微が分からないわけでもない。


だから、本当に本当にどうしようもないようなひどいことをやらかした場合は、伊波くんは何も用意しない。


今回は私がそこまで気にしていないから、それを踏まえて聞いてくれているのだろう。


どうしようかな。


よーし、伊波くんがせっかくそう言ってくれたのだから、どどんとおねだりしちゃおう。


「明日の朝オムレツ作って欲しいかな」

「はい」

「ふわとろでチーズ入ってる大きいやつね?」

「はい」


もちろんです、と微笑む伊波くんに、拳を握る。


「やったっ」


伊波くんのオムレツはとても美味しい。もう、頰が落ちそうな感じに美味しい。


伊波くんはオムレツとパンケーキの美味しいカフェでアルバイトしていたことがあって、オムレツとパンケーキは抜群に上手だ。


ふわっふわのとろっとろになる。


お店の味として出せるようになるまで、かなり練習したらしい。


伊波くんは不器用ではないんだけど、慣れるのに時間がかかる人だ。


オムレツに付随して卵焼きとスクランブルエッグも上手なんだけど、目玉焼きとオムライスはあんまり上手じゃないのが面白いよね。


ふふふ、と上機嫌な私に、伊波くんがふんわり笑った。