彼は自らをシュウと名乗った。



存在を記憶の底から必死に手繰りよせようにも、思い出せず。


無理に思い出そうとすると、靄がかかったような感覚が脳から通じて視覚に影響を及ぼす。


それでも思い出そうとしたら意識が飛びそうになることもあった。



ここに身を置くようになってから、逃げる意思を見せない限り、私のすることに大半は口を挟まない彼——シュウも、これには禁止令を出してきた。


当然だと思うけど、それでも、その時ばかりは異常に念を押してきた。


それはもう、妙に勘繰って訝ってしまう程に。




そんな彼が、平日昼間の数時間程度、家を空けていくのに気が付いた。


その間に一応、脱出経路は調べてみたけど、そのいずれも無駄に終わった。




常に外から、二重にも三重にも鍵が閉められる扉。


確認のためにと毎回、念入りに鍵を開閉する音でその数は把握。