シエナははっきりとした口調で言いかけたはずが、ガタガタと全身震え、声まで震えていた。
司の顔も見ることができずにうつむいている。


司はフッと軽く笑ったような表情を浮かべると、シエナの手を掴んで歩き出した。


「そこまでは要求していない。
それに、近いうちに君の方から俺のそばにやってくる。」


「どういうことですか?
あの・・・私・・・高校1年のときの記憶がないんです。
私とあなたとの間には何かあったんですか?
思い出せない・・・お兄ちゃんも何か私に隠してるみたいで。
ううっ・・・だめ。頭が・・・痛い。」


「よせっ!もういいから。
思い出せなくても、これから未来のことだけ考えて生きるんだ。
とにかく、もどってしたくをしたらすぐに出かける。」


シエナはさっきまで意地悪な態度だった司が本当に自分を心配してくれているような素振りに驚いて「はい。」と答えてしまった。


(いったい、彼は私に何を隠しているの?お兄ちゃんも何を隠しているのかしら?
思い出したい・・・思い出さなきゃ、結婚してはいけないような気がするの。)




何もない客間で待たされたあげくに、やっと司に案内されたところはこじんまりした一軒家だった。
シエナがキョロキョロを見まわしていると、メイドの管理職という女があらわれて1日の流れを説明する。


「ご旅行からお帰りになられたら、奥様にはこれからのお勉強計画について執事からの説明を受けていただきます。
使用人は夜勤の者が交代しますのが朝食後の8時になっております。
それ以降は朝からの担当者がご挨拶させていただきますので、その日の担当にわからないことがありましたら何でもお聞きください。」


「これから旅行にいくというのに先のことをお話されるんですね。」


「はい、旦那様は多忙なお方ですので、わかっていることはすばやく対処していきませんと、予定がどんどん込み合ってまいります。
でもまぁ、これからは奥様が家庭の計画をたてていただけるということで、私たち邸の使用人はかなり助かると思うのですが。」


「はぁ・・・がんばりますです・・・。
でも若輩者で、何もわからないんで、使用人の皆さんに指示なんていつになるやら・・・わかりません。」


「ぷっ!!」