シエナは忘れていたことを思い出し、司とあらためて結婚生活をスタートさせた。

しかし、まだ何かひっかかるような気がしてならなかった。

(なんだろう?私の記憶がなくなったのは司のあの・・・顔色。姿で・・・あれ?)


「うっ、頭が痛い。なんだろう・・・何かが違う!って叫んでるような気がする。」


20分ほどして、シエナの頭痛がおさまり、専門学校へ出かけていった。




ちょうどその頃、司は坂梨貴樹の事務所へきていた。


「なんだって!シエナが思い出したのか。」


「ああ、あのこが記憶をなくした原因がまさか、兄貴の姿だったとは・・・。
今更説明するのも、混乱させてしまうだけだろう。

俺がシエナを助けたのは事実だが、同じところに兄貴もいて爆発にまきこまれてしまった。
見た目の傷は治ったものの、地獄のような光景をいちばん近くで見てしまったんだ。

そのショックでもともと体が弱かったのに、神経にもダメージを受けてしまって。
あれが原因で兄貴は亡くなってしまった。
彼女が見たのは亡くなる1か月前の兄貴の姿だった。」


「兄といっても1つ違いだったんだ。
双子といってもいいくらいよく似てたもんな。
言っても混乱させてしまうと思って俺もシエナには剛のことは言ってない。
でも、いつか言わなければならないんだろうな。」


「もう少し時間をくれ。
俺はシエナといっしょに居たい。
まだ、何もかも話すのだけは・・・待ってほしい。」


「君の思うままに・・・だよ。
俺たちは君に助けられた。
会社も社員の生活もね。
それに、君は最初からうちにきてシエナを好きになってくれたんだから。」


「それも言わないでくれ。
彼女がまだ小さい頃から、見つめていたなんて知ってしまったら、きっと変質者だと思われる。」


「そんなことないって。」


「嫌なんだ。俺もその頃はどうしてそんなことしてたのか説明できないし。
ただ、シエナを見ていたかった。
笑って兄の君や姉のナスノの後を追いかけていた。
妹がいない俺はかわいくてかわいくて・・・ただ見てた。
見てるうちに、きれいになって成長したシエナを意識するようになって。

これじゃダメだと思って勉強して、仕事して・・・会わないようにしてた。
そしてあの事故が・・・。
今も彼の声が頭に残ってるのは事実だけど、俺はあのとき外国にいた。
シエナが見たのは兄貴だった。
会話してれば、俺と別人なことくらいすぐにわかっただろう。」