常識ナシの竜人サマ!

 ちなみに今のフェニルは一人である。先ほどの馬車へ案内した竜人が職務を放棄した、という事ではなくフェニル自身が宮殿に着いた時点でここから先は案内などいらないと拒否したのだ。


 軽く触れるとひんやりと冷たい扉。どきどきと心臓がなり、それをおさめようと大きく深呼吸をする。


 不安か、それとも興奮か。自分でも気づけない胸の音が聞こえなくなった後、もう一度深呼吸をしてドアを開いた。


 中は眩しいほどに宝石や黄金が使用された調度品。奥には玉座に座る者と隣に控える者の姿。おそらく玉座に座っている方がフェニルの夫となる男なのだろう。フェニルの立つ場所からはよく見えないが、きっとおどろおどろしい見た目の男に決まっている。などと勝手に推測する。


「もう少し近くに来ればどうだ」

 と玉座に座る男が口を開く。

「言われなくてもそうするつもりですわ」


 フェニルは男の言葉で自分が動いたわけではないのだ、と匂わせツンとした態度で言い返した。