聖なる夜にくちづけを。


「明日の新聞、大変なことになってるかも……」
「いんじゃない?それでも。幸せだから」

本当は食事の後に言おうと思っていたのに、緊張が勝って勢いのままで言ってしまったことを反省してうつ向くとそれに気づいたのか足を止めた。
頬に手が伸びてきて上を向かされる。
視線の先、優しく私を見ているのは紛れもなく愛しい人。

「そうやって、人のことを思い遣れる百合子が好きなんだよ。大丈夫、胸を張って」

耳に届くくすぐったい言葉が、心をほどいていく。
どこかにマスコミがいようと関係ないと思えるくらい、裕一くんの言葉は魔法のようだ。
再び歩き出して、今度は隣で手を繋ぐ。

「もともと事務所には反対されてるわけでもないし。今は公表してる人も多いしね」
「それでも流石にこんな風に大っぴらにって人は少ないでしょう?……会いたいなんて、ワガママで呆れられるかと思った」
「ワガママの全部には付き合いきれないかもしれないけど、会いたいと想ってくれることは嬉しいよ。そう想う瞬間は、僕にもあるから」
「素直な女の子の方がいい?」
「わかってないね?素直な女の子よりも、素直になろうとしてくれる、ワガママも飲み込んでくれる、百合子がいい。僕のために、ふたりのために、人を思い遣れる百合子だから好きなんだよ」

話をしながら歩いて、気が付けばレストランについていた。
『いらっしゃいませ』と、店内へと迎え入れられると窓際の席へと通される。
イブを過ぎてもクリスマス。
店内はそこそこに賑わいを見せていて、店員さんたちは忙しそうだ。
すでに料理もドリンクもおすすめで頼んであるようで『ごゆっくりお楽しみくださいませ』と言って店員さんは下がっていった。

「プロポーズしようとした日まで先を越されるなんて思っても見なかったな」

裕一くんはくすくすと思い出し笑いをしている。
彼の時間を垣間見ているようで嬉しい。

「今日はよく喋るね?」

からかうように言うと、意に介さず屈託なく笑う。

「嬉しくて、特別な、大切な夜だからね」

そう言って彼はそっと体を伸ばして、料理が届くその前に、私の唇に熱を移した。
驚き目を閉じることもできなかった私を、彼は見つめている。
私の好きな、その笑顔で。








聖なる夜にくちづけを。完