しっとりとしたクリスマスソングの流れるカジュアルフレンチレストランにて。

「ばっかじゃないの?」

ぐさり、突き刺さる言葉を私に言うのは、親友と呼べる友・浅沼聡子。
今日でめでたく御歳32を迎えたところだ。

「バカですが。バカですが、なにか?」
「自覚してる分だけ可愛くないよね」
「聡子に向けての可愛さは持ち合わせてないもん!」
「“もん!”とか言う歳かよ」
「年齢関係ないー!それは言っちゃダメー!!」

文字通り頭を抱えて項垂れる私・鏡味百合子、同じく本日めでたく32歳になったところだ。
世間はもう間もなくやって来る年末年始に向けての貯蓄期間なのか、平日の夜はレストランも静かなものだ。
新入社員で同期として出会い、お互いに同じ誕生日だと言うきっかけでよく話すようになった。
話してみれば竹を割ったような性格で、大変付き合いやすく、そして聡子も同様に感じてくれたようで、いつのまにか親友といって過言でない仲になった。

そして月日は流れ早10年。
お互いにもうそろそろ良い歳と呼ばれる年齢に差し掛かろうとしている“独身女性”だ。

「誕生日も会えない、クリスマスもダメ。で、拗ねるってあんたはどこの小娘?」
「聡子さん容赦ない」
「百合子に使う容赦は持ち合わせてございません」
「なんだよ、もう!」

ガバッと体を起こすと、聡子の綺麗な顔が呆れていた。
そんな顔で見つめられては私が情けない顔になるのも仕方がないことだと思う。

「その切れ長の目で呆れてるって言わんばかりに見つめてくるの止めてください」
「だって呆れてるし?」
「分かってるよ!」

そうだ、分かっているんだ。
どうしようもないことだと、わかってる。