偽りの自由



「…突然押したりしてごめんなさい」



安心したと同時に襲ってくるのは罪悪感だった。


さりげなく目を逸らし、頭を下げる。


勘違いだとはいえいきなり押すだなんて失礼すぎる。



「…いや、いいよ」


驚かせたこっちも悪いしねー、と、那智の隣で誰かが笑う。


那智が立ち上がったのが気配でわかった。

心地よい香りが鼻先を掠めて、わたしの心を落ち着かせる。


この香り、ラベンダーかな?

小さい頃はよくこの香りを嗅いでいた。


頭を上げると、ふわり、風が吹いてフードを浮かせた。

いままでフードに隠れていた髪が風に乗って靡く。

視界に栗色がチラチラ入り込むから耳にかけて、邪魔をしないようにする。



「…名前は?」


「、由蘭」



あなたたちは?と琥珀色のその瞳を見つめ返す。

那智の焦げ茶の髪が夜の闇に溶け込む。



「俺は…」


「はいはい!僕は柚月(ゆづき)!佐久間柚月だよー」


よろしくねー、由蘭!なんて那智の言葉を遮って柚月が笑う。


柔らかそうなミルクティー色の髪が小刻みに揺れた。


甘い蜂蜜色の瞳は暖かさに満ちていて、
春の太陽みたいだな、と。


それが、柚月の第一印象。



「でね、あそこのオレンジの髪が七瀬 瑠生(ななせ るい)」


「…オレンジ好きなの?」


「まあ、嫌いじゃねーけど好きでもねー」