なんでわたしなの?って。
小さい頃からずっと思っていた。
周りの子には暖かい家庭があって。
自分を愛してくれるひとがいる。
「おかえり」と言ってくれる家族がいる。
わたしには、そんなのはなかった。
あるのは彼の冷たい眼差しだけで、物心ついたころには自由なんてすでになかった。
未だに答えはわからなくて、お母さんやお父さんを憎むことすらできなくて。
…諦めるしか、道はなかった。
『、っなんで』
夢の中で幼いわたしが問いかける。
『わたしは、ただ──…』
「…ぃ、おいっ」
「っ」
突然頭に響いた声に、一気に現実に引き戻された。
ドクンッ、心臓がありえないほど強く鳴って。
地獄の底に突き落とされたように、息がつまる。
…見つかった、の?
「いっ、いや!!」
そう頭が考えるより速く、わたしの手は相手を強く押していた。
強く、ありったけの力で。
「…!」
「はっ?」
「っわ、那知(なち)!大丈夫ー!?」
ドサ、と鈍い音を立てて相手が倒れこむ。
「え、」
その瞬間聞こえてきた声に、逃げようとしていた足を止めた。
驚いたように声をあげたのは周りのひとだけ。
那智と呼ばれた彼は驚いた表情をしたものの、わたしから目を離したりはしなかった。
「おいっ、なにすんだよ!」
はっと我に返る。
目に入ったのは、同い年くらいの三人の男の子。
その中に見知った顔はない。
慌てて周りを見渡すけれど、他に人影も見当たらなくて。
(…彼じゃ、ない)
少しずつ落ち着きを取り戻していく胸に手を当てて、よかったと全身から力を抜く。
見つかったわけじゃなかった。
わたしはまだ、自由だ。
ただそれだけがわたしの救い。

