それは、彼のような人が住む異世界。
わたしにとっての別世界。
けれどよく彼に連れてこられたわたしには身近な世界でもあった。
(彼関係の人がいるかもしれない)
フードを深く被って、道の端に寄る。
人がたくさんいるところはダメ。
とくん、心臓が小さく音を立てる。
繰り返し適当に角を曲がって、奥へと進む。
そしてネオンの光が届かない裏道へ来てようやく足を止めた。
コンクリートの壁によたれかかって、目を閉じる。
ふわり、風が吹いてわたしの髪を揺らす。冷たい、風。
ここまで来れば、大丈夫?
あの家からどれだけ離れられただろう。
あまり遠くへは来ていないと思うけれど、ここまで来たら一日は見つからないはず。
「っ」
時折騒がしい笑い声が鼓膜を叩く。
その度に息を殺して身を縮めていたけれど、何十分、何時間が過ぎてもこの裏路地に人がくることはなかった。
少しずつ、忘れかけていた疲れが蘇ってきて。
「…、」
プツン
わたしの意識はそこで途切れた。

