『名前を』

それは私に向けられた言葉だった。

「えっと、じゃあ名前を教えて?」

二人の会話に和んだ私は自然にそう訊けた。最初は怖かったのに、今はなぜか愛らしささえ感じる。

さっきの私の記憶をいいように使ったのはこの子たちじゃなかったんじゃない?

そう思った。

『ダメじゃっ』

高い声が言う。駄々をこねるような言い方に私も優しく問う。

「なんで?」

『吾が輩は妖狼だ。名前はまだない』

低い声がそう答えた。

どこかで聞いたことがあるような台詞に私は笑って首をかしげる。

「じゃあ、呼べないわ?」

『姫が妾の名前をつければ良いのじゃ』

「私が………?」

『吾が輩のもな』

どうしよう?

名前って、太郎? 花子?

でも待って。ここは日本じゃない。

今の私の名前だってシュティ・レヴィアだのって、誰だよって感じの名前。

そもそも性別、声が高い方が女の子で、低いのが男の子でいいの?

「えっと」

『ああ』

「それじゃあ」

『姫?』



「鳳凰の方がゴル、妖狼がシルね」


なんて適当な名前なんだろう?

ゴールドとシルバーなんて。金と銀なんて。

しばらく、呼ぶたび恥ずかしくなりそうな予感がした。



長い沈黙。その後、愉快なもう一人の私たちが言う。

『名前しかと聞いた』

『妾たちが姫の影じゃ』

そうして彼らは姿をこちらにさらした。