私は彼に不満な顔を向けた。

「ねぇ、本当にこれやらなくちゃいけないの?」

これは影探し自体への苦情ではなく、そのためにしなければいけないことを聞いて、その方法に対する文句だった。

彼に影を探すと言われて少し歩いたところ、池が見えてきた。そこまでは良かった。とても綺麗な薄紫の池はとても神秘的に見えた。


しかし彼はその池に服を脱いで入れと言うのだ。


その言葉に絶句した後、もう一度池を見ても怪しげな池にしか見えない。

「ええ、わたくしもやりました」

彼が平然と言うので突っ込みどころも分からなくなった。

とりあえず、彼が裸であの優雅な足運びのまま薄紫の池に沈んでいく妄想を振り払う。

そんなことをしている間に彼は私から一歩離れた。

「わたくしは後ろを向いています。何かあればお呼びください」

どうやら、本気らしい。

彼の影の黒豹が私をいまだに見つめている。

もう一人のケイ、なんだよね………。

そう思うとドキドキしている自分に気づかないふりをして、彼のローブを脱がずにチェニックを先に脱ぐ。

どうせ全部脱がなければいけないのに、少しでも隠れればいいなと思った。

背中を向けた彼は宣言通りピクリとも動かないのに。

「___このまま入ればいいの?」

彼のローブだけまとった私は彼に聞いた。

「はい。入れば次にすべきことは自然と分かりますよ」

何を考えているのか分からない声にももう慣れた。

ゴールドアイを覗きたい気分でもない。

代わりに私は彼にローブを返すためにかけてあげたふりをして、どさくさに紛れてほんの一瞬彼を抱きしめた。

「行ってくる」

なんだかいまさらになってすごく怖かった。

もう一人の自分は自分と全然違うって言ってたけど、それってどういうことなんだろう?

本当の自分は見つめることさえ、つらくて嫌い。

これから探すものがそういうものなら、私は今すぐ逃げ出してしまいたい。

だけど、彼の一言があれば頑張れる気がした。

その期待もこもった言葉に彼は言った。



「ええ、待ってます」



それは私が望んでいた言葉。

独りじゃないという約束。


嬉しさを隠すように彼から離れて、駆けるように私は池へと入り、やがて沈んだ。



もう一人の自分が私を呼んでいたのだ___。