緋女 ~前編~


彼の言葉に目を輝かせて、次の言葉を待たずに言う。

「魔法教えてくれるの?」

勢いに押されて、彼が私を見下ろして困ったように答えた。

「………まあ、そのうちに」

「えっ、じゃあどういうこと?」

彼が困っていることも気にせず、矢継ぎ早に質問する私に嫌な顔ひとつしない。

「魔法を扱うためにはまず、その反動に耐えられるようにならなければいけません」

その言葉は簡潔であったが理解に苦しむ。だって、彼は毎度毎度私と軽く飛ぶではないか。

そんな彼に反動なんて全くあるようにみえない。

「疑ってますか?」

「あっ、いやそんなこと___まあ、そうね」 

否定しかけてやめた。こんなこと、取り繕うこともない。

「あまりにも貴方が魔法を簡単に使って見せるから」

「そうですか?」

小首をかしげ、彼は続けた。

「まあ、その人の能力で魔法の程度も決まりますから、無茶をすれば反動は大きくなります。最悪の場合、死ぬこともあり得るんですよ?」

「………私、大丈夫かな」

彼の言葉に思わず私は呟いた。

でも、そんなことを言いつつ本当はずっと前から死ぬなんて怖くない。

むしろ、願ったり叶ったりだったりする。


心配だったのはもう一度叶わぬ夢の続きを見れるか否か。


こちらを見た彼の優しい瞳に出会って、私は後ろめたい気持ちになったが、それでも私が彼にこのことを伝えることはない。

言えるはずがない。
この優しい瞳に嘘つきな私を映すわけがなかった。

この感情は___とても面倒だ。


「そのために魔法を扱う人には影が必要不可欠なんです」

「影?」




予想もつかない展開に私は道が少し先で途絶えて、森のなかに入ろうとしていることに気がつかなかった。