その言葉に私は抱き締め返そうとした腕で彼の胸を押しやった。

「無理」

私の一言に彼が舌打ちをした。少しだけ、私との距離ができたが、あくまでも私の上からは退かない。

だが私はこのどうしようもない心臓のうるささをどうにかしようと、必死で彼の今の言葉を解釈しようとしていた。

「っていうか、からかわないで」

そう違うんだ。彼はまた楽しんでるだけなんだ。

彼の瞳にからかい以外浮かぶはずないの。

着替えを手伝うと言った彼が最終的に何もしなかったの知ってるし。
 
だいたい私みたいなのとって、なんの価値もない。

あっでも、今の私の見た目って人間離れしてるんだっけ。

でも、中身は同じ。

少しだけ前と違う努力をしようとしただけ。

私にはなんの魅力もない。

そうだ。だから静まって。

彼に聞こえないように。


「レヴィア様」


突然、彼が新しい名の私を呼ぶから、一瞬反応が遅れた。

「ちょっ、近いから」

彼との距離はゼロに限りなく近くなっていた。

「王子のことが好きですか?」

彼のまっすぐな瞳に戸惑った。

からかいでもなんでもない純粋な質問をされて私の心臓が飛び出たかと思うが、まだしぶとく鳴っているところをみれば、そうでないことは明らかだ。



「好きだよ」

とりあえず、私は安全策をとった。

彼が王子のことを気にかけていることは知ってるから、嫌いとは言えない。

それに嘘でもない。本当でもない。

王子を見て自分と重ねるとみじめだったけど、私に笑った王子に今はもう叶わない夢を見た。王子を通してずっと見ていたいと、そう思ったくらい素敵な夢。

それは、母と私があの私しかいなかった庭で笑い合う夢。

私と王子は似ている。

だから、王子の笑顔を守ることは私の叶わない夢の続きを見る唯一の方法に思えた。

王子の願いが叶えば、私も運が悪かっただけで本当は叶った夢なんだと思うことができる。

正直、好きかなんて分からない。

けど

「ケイがお兄さんなら、弟くらいかな」

同等にしておけば文句の言い様もないでしょ。

だから、私の心臓が壊れないうちに離れて。

お願い。



気づかないふりをしてる感情が溢れる前に。