力が明らかにゆるんだ。

咳き込む私を彼は呆然と見つめていた。

信じられないものでも見るかのように私を見る彼に、咳と一緒に笑ったら変な音になる。

でも、そんなことどうでもいい。

「ケイ、よく聞いて」

私は彼に伝えなきゃいけないことがある。

「貴方が私を嫌いでも、私は嫌いじゃない」

一呼吸置いて、彼の頬に片手を寄せる。

「口先ばっかりで優しい貴方を嫌いにはなれない」

そう繰り返す。

「知ってる。私には非女に何をされたか話してくれないんでしょう? それが私への優しさ」

恨んでるなら、その非女の娘だという私をそれを理由に責め立てればいい。

それをしないのは、誰のためか。

「それに、王子と私のことずっとあの庭のどこかで待ってたでしょ?」

そうじゃなかったら、こんなに彼が冷たいはずがない。

「その証拠に王子のことはあの場で責め立てなかった。私のこと非女の娘呼ばわりしながら、あの子には何も言わなかった。それって王子っていう階級のせいじゃないでしょ? 貴方はそんなの気にして行動しないから」



「………自惚れるな。お前に優しいとか。王子を責め立てなかったんじゃない、責める理由がないだけだ」



「そう?」

「そうだ」

私は無意識に嘘つきな唇をなぞっていた。


「じゃあ、勝手に自惚れるね」

そう彼に囁きかける。

「は………?」

「だからさ、そんな苦しそうにしないでよ。私が憎いんだったら、そう言っていいよ? 私は、私だけは貴方を嫌いにならない自信がある」

「それって___」

何か言いたげな瞳。言いたいことは分かってる。

「うん、好きなの」




「きっと、お兄ちゃんがいたらこんなんかなって思う」



私は、ケイが一瞬にして疑いの目で睨んできたことを不思議に思いつつ続けた。

「全然仲良くないけど、私のこと一ミリくらいは気にかけてくれるとこ。お兄ちゃんができたみたいで好きだよ」

その言葉にケイの眉間が寄る。

でも、次の瞬間諦めたように言った。

「お前の兄なんかごめんだ」

そう呟いて私を抱き寄せて肩に顔を埋めた。


「嫌いにならないと言ったな」

「うん?」



「じゃあ、犯してもいいか?」