「何言ってるの?」
これには私も口を出さずにはいられなかった。
「人のことなんだと思ってるの? 勝手に婚約決まってるし、それを言わなかったことも謝らない。挙げ句に私とキスとか、なんなの? 貴方何様のつもり?」
「貴女こそ今更なんです? 王子を騙して虜にして楽しかったのでしょうね。 貴女ならキスくらい思い出にくれてやっても問題ないんじゃないですか?」
「………」
なんて嫌な人なんだろう。
だがそれはケイから見たら真実なのだろう。
ケイに着替えさせてもらった時だって、結局まあいいかと抵抗するのをやめた。
いきなり婚約者にした人と普通に仲良くしてる。
何も感じないんだと勘違いされてもしょうがない。
私も実際、何も感じないんだと思ってた。
けど、今は違う気がする。
理由や根拠はない。
ただ漠然とそう思った。
「………ケイ、僕はレヴィアに騙されてないよ。むしろ僕の方が騙してる。友達、とかね」
私が黙っていると王子が再び口を開いた。
その落ち着いた声に驚く。
「ケイも分かってるよね? だからレヴィアに当たるのはやめて、僕に言えばいいよ。僕も負けないから」
「………わたくしも負ける気は致しませんね」
二人は長いこと見つめ合っていた。
「その賭け乗るよ」
ふいに王子が言った。
その静かな音に聞き流しそうになって、私は我に返った。
「えっ⁉ 今なんて………」
「ごめん、レヴィア」
「いや、なにが? ていうか、そういうのって好きな人とするの、分かってる?」
「___まあ、レヴィアよりは分かってるかも」
王子がふわりと微笑む。その儚さのある顔に私は混乱する。
「は?」
「レヴィアの忠告には背かないよ___?」
「レヴィア様っ」
その言葉に何か言おうとした私を遮るようにそう呼びかけたのは、ケイだった。
「帰りますよ」
そう言って私の手をとると、連れ去るように庭から消えた。
残った王子が呟く。
「僕もあれくらいできたらいいのに」
それが魔法のことなのか、彼女を連れ去ったことなのかは誰にも分からない。



