「あっ、その………ケイ。僕はそんなつもりじゃ___」
その言葉に動揺したのは王子の方だった。
何を怒っているのかは知らないが、私はケイが婚約を黙っていたことを根に持っていた。
「謝んなくていいよ」
そう言ってケイの存在を無視するように、王子に首をかしげた。
「明日のいつが都合いい? 王子に合わせるから。ごめんね、あの人に聞いた私が悪かった」
そうわざとらしく言ってあげると、やっと彼は振り向いた。
「明日のレヴィア様は午後しか空いておりません、王子」
僅かに含まれた怒気に私も王子も気がついた。
「そうなんだ。あっ、えっとじゃあ、今日と同じ時間にここってどう?」
明らかに焦った声の王子を横目に、私はケイへ向き直った。
「さっき好きにしていいって言ったよね?」
私は半ば喧嘩腰。
「ええ。今予定を思い出しました。すみません」
そう謝られると弱い私は、不満を抱いたまま王子にうなずいて見せた。
「うん。じゃあ明日同じ時間、この場所で」
この場を離れるのが嫌になった。
ケイにこのあと憎しみの瞳で何か言われることしか想像できない。
正直、もうそれに耐えられる気がしない。
なんでだろう?
「___待ってるから」
気がつけば王子にそう言っていた。
王子といる時間は不思議なくらい安心した。
欲しいものはそこにないけど、独りじゃない二人の安心感がある空間。
どちらかが望まなければ崩れない絶対の関係。
そこは心地がいい閉ざされた鳥籠の中。
空に憧れながら、飛ぼうとしない私たちにはちょうどよかったのかもしれない。



