「お世辞じゃなくて、本当に綺麗だよ」
「まあね、あたいは妖精だから」
そういうことじゃないけど、もう否定しようとは思わなかった。
心が綺麗なんて、いきなりよく知らない人に言われても気持ち悪いだろう。
「で、図書室は行かないのかい?」
「えっと、うん。そんな予定はな…………あっ」
“放課後来てくださいますか?”
あれは図書室で出逢った青年の言葉だった。
シュティ・レヴィアの母セルヴィアに惚れたが叶わなかったのであろう人。そして今でも一生叶わない恋をしている、そんな淋しい人だ。
そう言った意味では私とよく似てる。
「………そうだったね」
今の私ならあの青年の話をちゃんと聞ける気がした。
何より、その叶わない想いを共有するのもいいかもしれない。
「彼と知り合いなの?」
「あの本の虫のことかい?まあ、そんなとこだね」
「そっか」
なんでここに彼女が現れたのかは知らないけど、彼女はどんな形にせよきっと青年のことを想ってる。
こんな素敵な人がいるのに、馬鹿だな。
そんなに、シュティ・レヴィアの母セルヴィアは素敵な人だった?
「じゃあ、私図書室行くけど………えっと」
「チュリア、あたいはチュリアだよ」
「そう。じゃあ、チュリア。一緒に行く?」
「____行かないよ。あんた一人で行きな」
そう言った妖精は少し陰りのある顔をしていた。
「チュリア………?」
「ほら、早く行きな。怪物はこっちが足止めしとくから」
そう言った時のチュリアはまた強気な顔に戻っていたから、この時の私はあまりそれを気にしなかった。
「怪物って?」
「あんたのくっつき虫」
思い当たる人はいなかったけど、チュリアはそれ以上は教えてくれない。
「じゃあね」
そう言った妖精は廊下の窓からふわりとどこかへ飛んでいってしまった。



