私には言葉の意味が分からなかった。
「それほど単純じゃない?」
「そうだ。レヴィアはこの世界は魔法の強いものが一番偉いと勘違いしてないか?」
先生に魔法がきかないことを聞きたかったのに、話が大きくなって不安を覚える。が、先生の真っ直ぐな瞳には敵わない。ため息交じりに私は答えるしかなかった。
「一番偉いのは王様でしょ?でも、ここは魔力のレベルが高い人ばかり集めて、未来の臣下を育てている。やっぱりどんなに綺麗ごと言っても、偉くなるのは魔力の強い人じゃない?」
うん臭そうな私の言葉。でも、決して自分の知識に自惚れたわけではない。
思っていることをそのまま口にしただけ。
先生の前では、建前とかプライドとかそんなものはいらない。それは、先生がそんなものを持ち合わせていないからに他ならない。
昨日はチョロいと思っていたけど、本当は先生が一番面倒でたちが悪いのかも。
「この国に人種差別が起こっているのは知っているのか?」
「えっ………?」
人種差別とは自分とは違うと認識したものを排除しようとする動きのことに間違えはないはずだ。
「人種差別って?黒人とか?」
「黒人?そんなものは知らない」
言ったのは私だったけど、考えてみれば黒人なんてこの国に来てから見たことなかった。あと思いつく差別といえば宗教がらみ。
でも、この国でそんな宗教じみた習慣は聞いたことがない。
「レヴィアは魔法のの使えないものと会ったことがないんだろ」
断定気味に言われた台詞。
私は先生が言ったことを理解するのに少し時間がかかった。
魔法の使えない者。非魔法使い。
それはつまり魔力のない者。影を持たない者。
そんな人と私は会ったことがない。
それは私にとって当たり前だった。
だって、ここは魔法の国。太陽が二つもある国。
そんな国で魔法を使えない者がいるなんて、そんなこと思わないし、使えて当たり前だった。
でも、先生が言ったそれって___
「それって、この世界には魔力を持っていない者がいるってこと?」
先生が頷く。
「魔力のない者を一部の人は人とも認めていない」
「そんな………」
ここは魔法の国だ。
強くてカッコいいヒーローがいて、優しさで溢れた完璧な国。みんな楽しそうに暮らし、ヒーローはそのみんなに慕われる。
そんな国だと疑いもしなかった。
なんでそんな風に思っていたんだろう?
「魔法の使える者は何もしなくても出世できる。だが、魔法の使えない者はどんなに足掻いても這い上がることは不可能」
この世界の人は全員魔法が使えると思っていた。
だから自分が魔法を使えることになんの疑いも抱かなかったのだ。
「つまり魔法の使えない者は___」
「一生それをひがんで生きていく」
私の言えなかったことを先生が引き継いだ。
でも、それは私にとってあまりにも暗くて重いものだった。



