緋女 ~前編~



どっちがいいだろうか。

授業に途中参加する転校生と授業を最初からサボる転校生。

以前なら、私はどれだけ学校が嫌いでもサボることはしなかった。

それはひとえに母がゆえに、だ。

でも、ここに母はいない。

「あっ、ちなみに授業を受けるんだったらおひとりでどうぞ。僕、あの先生嫌いだからさー」

「えっ」


この人、じゃあ何のために教室前まで来てるんだろ? 


あー、そうか。



「………そう言って、本当のところ私と教室入るのが嫌なの」



「ほんとっ、気持ち悪いね。僕がレヴィのこと嫌いだって思ってる?」

底知れない漆黒の瞳は私を射抜く。

でも、それより深い瞳を私は知っている。そんな気がした。だから理由もないけど怖くはない。

「違うの?」

私のその返しに不機嫌に少年は答える。

「違うね。僕はどうしてもレヴィと二人でお話ししたかっただけなんだけどー」

「えっ」


「だめ?」


学校での意外な言葉に私は思わず頷いてしまった。


「いいよ、えっとバス・ショート君?」

「えー、名前で呼んでよ。しょうちゃん、とかさ」

「分かった。ショウ」

「ちゃん」

「却下」

即答した私にショウは文句を言っているが、私はなんだか嬉しかった。

執事でも、婚約者でもない。

普通の学校の友達。


「えっと、どこ行く?」


「うん、来て」

自然に私の手をとって歩き出す。てっきりケイみたいに飛ぶのかと思っていたから、新鮮だ。

でも母じゃなくても素直にその手を温かいと感じてしまう私は、母を裏切っているだろうか?

でも、母はここにはいない。


そう思った時ある言葉を思い出した。



“お前にもいいことが一つくらい巡ってきてもいい”



あれは誰の言葉だったか。

でもそれは確か、私に母以外に目を向けるきっかけをくれた言葉。

その言葉に、私は新しい世界を生きようと思った。


なんで今まで忘れてしまっていたのだろう。



思い出して。


あの言葉は___誰の言葉?