どっちがいいだろうか。
授業に途中参加する転校生と授業を最初からサボる転校生。
以前なら、私はどれだけ学校が嫌いでもサボることはしなかった。
それはひとえに母がゆえに、だ。
でも、ここに母はいない。
「あっ、ちなみに授業を受けるんだったらおひとりでどうぞ。僕、あの先生嫌いだからさー」
「えっ」
この人、じゃあ何のために教室前まで来てるんだろ?
あー、そうか。
「………そう言って、本当のところ私と教室入るのが嫌なの」
「ほんとっ、気持ち悪いね。僕がレヴィのこと嫌いだって思ってる?」
底知れない漆黒の瞳は私を射抜く。
でも、それより深い瞳を私は知っている。そんな気がした。だから理由もないけど怖くはない。
「違うの?」
私のその返しに不機嫌に少年は答える。
「違うね。僕はどうしてもレヴィと二人でお話ししたかっただけなんだけどー」
「えっ」
「だめ?」
学校での意外な言葉に私は思わず頷いてしまった。
「いいよ、えっとバス・ショート君?」
「えー、名前で呼んでよ。しょうちゃん、とかさ」
「分かった。ショウ」
「ちゃん」
「却下」
即答した私にショウは文句を言っているが、私はなんだか嬉しかった。
執事でも、婚約者でもない。
普通の学校の友達。
「えっと、どこ行く?」
「うん、来て」
自然に私の手をとって歩き出す。てっきりケイみたいに飛ぶのかと思っていたから、新鮮だ。
でも母じゃなくても素直にその手を温かいと感じてしまう私は、母を裏切っているだろうか?
でも、母はここにはいない。
そう思った時ある言葉を思い出した。
“お前にもいいことが一つくらい巡ってきてもいい”
あれは誰の言葉だったか。
でもそれは確か、私に母以外に目を向けるきっかけをくれた言葉。
その言葉に、私は新しい世界を生きようと思った。
なんで今まで忘れてしまっていたのだろう。
思い出して。
あの言葉は___誰の言葉?



