緋女 ~前編~



そういえば、今授業中だったりするんだろうか?

授業に途中入りの転校生とか嫌なんだけど。

「あっ、ここか………」

どうしよう。前から入るべきか、後ろから入るべきか……。

教室前の廊下をいったり来たりしていると、ドアの窓からちらりと授業をしている先生が見えた。

嘘っ。

あのオヤジ先生じゃん。

ますます入りづらい。

「どうしよう」

「何突っ立ってんのー?同じクラスだよねぇ」

「えっ」

突然かけられた声に戸惑いつつ振り替えると、少年がこちらを見ていた。

ニッコリ笑っているのに、その漆黒の瞳には底知れないものを感じて背筋がゾクゾクする。

「あー、同じクラスって言われても僕のこと知らないかー」

そう言って私に一歩近づいた。



「僕はバス・ショート。よろしくー」



どこまでもいいかげんなしゃべり方。

自分よりも背が低いと言うのに見下されている感じがする。

「えっと、私はヒメリア。よろしく……?」

「うん、よろしくー」

そう言って、少年が背伸びして私の耳元で囁く。



「シュティ・レヴィア」


冷たすぎる声。別人かと思うそれに私は固まってしまった。


「なっ、なんで私の名前……」

「だって有名人でしょー」

「__転校生だから?でも、こっちではケイがヒメリアで通してあるって言ってたし」

「そりゃーそうだろうねー。でも、僕は君と同類だから」


“わかっちゃうんだよねー”


そう言ってクツクツと笑う。

不気味なこの少年は、ケイが秘密にしようとしていたことを知っている。

なぜかそのことに焦りを覚えた。

でも、頭では分かってる。

この世界での私の名前、シュティ・レヴィア。それを知られることで困ることは今のところ何もないこと。

ケイの言う通りに全部する必要はない。

それに、シュティ・レヴィアという名前が何を意味するのか少し気になる。


でも、ケイとの約束を破るのは気がとがめた。


“約束は守りましょう”


別れたケイの言葉が蘇る。



「___私の名前はヒメリア。人違いです」



結局、そう答えた。

私は馬鹿だ。

なんでシュティ・レヴィアを知るチャンスを逃してまで、ケイの言うこと守ってるんだろ?



母以外はどうでもいい。

そのはずなのに。