「使われていない部屋で寝ます!」
私は襖を開けて部屋を出る。
「おい、待て!」
廊下を歩き出す私を初めて振り返った土方さんの声が追いかけてきた。
「危ねぇだろ、何考えてんだ」
気がつくと、土方さんは私の肩を掴んでいた。
「危なくないです!自分の身は自分で守れます!」
そう言うと、土方さんはため息をついた。
「本当だな?」
ぎろりと睨みつけるような目線。
その目は本当に鋭くて、怒っているように見えた。
その目に見つめられて、はいと返事をした声は思ったよりも威勢のない声だった。
「俺の隣の部屋が空いている。そこを使え」
土方さんはその部屋を顎で差した。
「ありがとうございます」
私がその部屋に向かうより前に土方さんは自分の部屋に戻って行った。
返しそびれた着物を手に、土方さんの部屋の隣の部屋に入った。
中に入ると、想像していたよりもほこり臭くなく少しだけ驚いた。
ほこり臭いどころか、なぜこの部屋を使わないのだろうというほど掃除が行き届いている。
周りも暗くなっているし、寝ることにしようと思って部屋の中を見渡すと、布団がないことに気がついた。
当たり前だ。ここで私が寝るなんて誰も予想もしていなかったのだから。
かと言って土方さんに借りに行くのも気がひける。
あんな風に言ってこの部屋を借りたのだから。
仕方ない、か。
この床の上にそのまま寝よう。
そう思って床に寝転がった。
冷たい床の感触が薄い着物越しに伝わってくる。
やっぱり寒いかも…。