「知らない…」

忙しくてすれ違ってばかりで、この先一緒にいても上手くいきっこない。

「お前なあ、アイツみたいなイイ男そういないぞ?」

「……なんにも知らないクセに」

私は兄の注いでくれたワインを一口飲んで俯いた。

胸が痛かった。

***

そして現在。12月24日。

場所はホワイトキャッスル・ホテル1階《THE BAR SNOW WHITE》

「やだぁ、こんなところで出会うなんて。山崎さん、こんばんはぁ」

……最悪だ。

漸く涙を拭いて最上階のスイートから降りてきたのに、よりによって同僚の綾瀬理子に出くわすとは。

理子は私を嫌っている。

一年前、私が理子の意中の男性に食事に誘われたのを逆恨みした彼女は、事ある毎に私を目の仇にしているのだ。

「なにしてるの?まさかひとり?」

長い髪をかきあげながら、理子は少し笑った。

思わずグッとつまる私に、彼女は唇を引き上げて続けた。

「私は待ち合わせ。今回の相手は商社勤めの優良物件。とりあえずキープしなきゃね。で、あなたはもしかして男を物色中?」

ほんと嫌な女だ。

私は理子を一瞥すると敢然と口を開いた。

「まさか。私も彼と待ち合わせなの」

嘘だけどな!