「そんなの俺が困るだろーが」

もう我慢できなかった。

「要らないよ!何も欲しくない!」

バン!とテーブルに両手を叩きつけた私を見て翔矢が眉を寄せた。

「おい、由宇」

翔矢の仕事が忙しくなってきた頃から、私はずっとずっと我慢してきた。

旅行だって休日のデートだって、仕事帰りの待ち合わせだって。

なのに、なのに。

「翔矢は忙しいばっかじゃん!私達は幼馴染みで確かに他のカップルよりも新鮮味に欠けるかもしれないけど、こんなのってない!そんな面倒なら誕生日なんて祝ってもらわなくていいよ!クリスマスだって」 

言いながら泣けてきて、私は声が詰まった。

でも言ってやる。

傷付けられた分、言ってやる。

「ホワイトキャッスル・ホテルだってこっちから願い下げだよ!他の誰かと行くよ!」

みるみる翔矢の瞳に怒りの光が生まれたけど、私は言葉を止めることが出来なかった。

その日初めて、私は翔矢と暮らすマンションを飛び出した。

***

死に物狂いで働いているうちに、私の誕生日はあっけなく過ぎ去っていた。

兄の家に転がり込んだ私は、あれ以来翔矢と口を利いていない。

「連絡ないのかよ?」

「ない!」

私が自棄気味でそう言うと、二歳年上の兄は溜め息をついた。

「で、これからどうすんの。別れるのかよ?」