「・・・遥香。そろそろ帰らないと」
私は直斗から離れた。
空は薄紫色になっていた。
夜と夕方の境目。
太陽と月が西と東にあるその時間。
普段青い空からは想像もできない、少し気味の悪い紫。
私もこの薄紫色の空のように、普通では有り得ない気味の悪いものなのかな。
「・・・遥香?」
「ん?」
直斗は私の名前を呼んだけれど、その後はなにも言わなかった。
直斗は自然に私と手を繋いでいて。
私の右手から伝わる直斗の体温。
それは私を安心させるには十分だった。
けど、どうしても頭から離れない。
『私は必要ないんじゃないか』って。
『私は必要だ』なんて、思えない。
どうしても私には、そんなこと思えないよ。
ねぇ直斗。直斗だけは、絶対に離れないよね?
私を必要としてくれるよね?
直斗がいないと私は────・・・。
ぎゅっとさっきまでよりも強く握られた、私の右手。
少し驚いて直斗を見たけれど、直斗は静かに微笑むだけだった。


