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「・・・ねぇ直斗。」







学校からの帰り道。







今日も何事もなく学校は終わった。






まあ、莉心ちゃんと仲直りしてないし、クラスで話す友達もいないんだけれど。







「どうした?」






直斗は、私を見た。







「ちょっと寄り道しようよ。」







本当は寄り道なんてしたらいけない。







でも、あまり家に帰りたくない。







そんな私の気持ちを読み取ったのか、直斗は分かったと頷いた。







私たちが向かった場所は、あの丘で。








私たちは街が見渡せるベンチに座った。








「なんかあったのか?」








直斗は優しくそう聞いてくれる。








私は夕日で茜色に染まる街を眺める。








「・・・私ってさ、愛されてるよね?お母さん達にとって必要だよね?」








昨日お母さんと話したのに、こんなことを思ってしまう。








こんな私は弱虫なのかな。









「え・・・。昨日おばさんになんか言われたのか?」








直斗は目を見開く。







心底驚いているようだった。








「なんにもないよ。言われてない。けどね、不安になるの。」









直斗から地面へと視線をずらす。








「本当は愛されてないんじゃないか。上辺だけの愛情だから、私が遥香だって気づかないんじゃないかって・・・っ!」








声が震える。







溜まっていく涙が、零れないようにぎゅっと目を瞑った。








「怖いの。本当はどうでもいいんじゃないかって。涼香がいた頃はこんなことなかったのに・・・っ」








目を瞑っていても、自分の手が、声が、震えているのがわかる。









自分の右手を、左手で握りしめる。








震えを止めたくてそうしているのに、左手も同じように震えているから、あんまり意味はなくて。








「・・・っ、もう、"私"は必要とされてないのかな。仏壇にある"私"の写真を見るのが辛いの!毎朝手を合わせる時に、"私"は死んだんだって思い知らされて・・・っ!」








声にならない。







だんだん小さくなっていく。








「遥香・・・」








「なんで、なんで、バック取り間違えたんだろう。確認すれば良かった!なんでお母さん達は、"私"に気づいてくれないの?いらないから?────もうやだよ・・・っ!」








ぎゅっと直斗に抱きしめられる。







「いらなくなんかない。遥香は、必要だから。好きなだけ泣いていいから。俺が全部受け止める。」








直斗の胸で、私はたくさん泣いた。








直斗はなにも言わずに私の背中を摩ってくれる。








直斗がいなかったら、私はどうなってたんだろう。







引きこもってた?







全く話さなくなってたかもしれない。







泣けなくなってたかもしれない。







でも、1番有り得るのは、『自殺する』だ。







生きているのも辛くなって、死んでいたかもしれない。







実際涼香が亡くなってから、何回、何十回と『死にたい』と思った。







それでも死ななかったのは、生きることを諦めなかったのは、直斗がいてくれたから。







直斗が支えてくれたから。







直斗は私にとってヒーローだ。