急いで引き返した時計店では、さっきとは違う低く響く声で迎えられた。

「いらっしゃいませ」

背の高い穏やかな雰囲気の男性だ。

「いらっしゃいませ。あ、先程の!店長が戻ってますので電池交換致しましょうか?」

女性は覚えていてくれたのに、俺の方は電池なんてどうでもよくなっていた。

「あの、砂時計はありますか?」

「砂時計、ですか?」

途端に困り顔をする女性の様子で答えはわかった。
『時計』と名が付くのだから真っ直ぐここに戻ったけど、あるかどうか自信はなかったのだ。
珍しい物ではないけれど、今まで買おうと思ったことがなかったから、いざとなるとどこに売ってるのか見当も付かない。

「砂時計は『時計』と言っても硝子工芸に属するものなんです」

パソコン画面を見ていた店長がプリントアウトした紙を差し出してくる。

「うちでは扱ってませんが、専門店と取り扱っているお店をいくつかリストアップしました。よかったらどうぞ」

ふわりと向けられた笑顔を見て、あいが一緒じゃなくてよかったと思う。

「あ、すみません。ありがとうございます」

利益にならない客にここまでしてくれるなんて、本当に申し訳ない。
できれば電池交換もお願いしたいところだったけど、やはりその時間はなさそうだ。

「ご希望に沿うものが見つかるといいですね」


寄り添う二人に見送られて店を出てから時計を確認すると、2時48分。
慌てて携帯で再度確認する。

帰りの新幹線までに間に合うだろうか。