春之が怒ってないとわかって、私はそれだけで有頂天になってしまった。
だから私は思いつく限り自分が楽しかった話を春之にし続けた。
学校で起こったささいな笑い話、先生の失敗、男子がどれほどバカなのかということ。
お母さんの手抜き料理の話とアニメの話題で私自身の話題はすっかり尽きてしまって、友達から聞いた話にも手を出した。
それでも口達者ではない私では長く続かず、話題をもたせるためにどんどん創作していく。
学校行事はやたらと増え、ハワイに一度だけ行ったミカちゃんは、フランスとインドと中国にも行ったことになっていた。
春之にとっては何一つ楽しい話題ではなかっただろう。
「へえ」「そっか」「すごいね」春之の発した言葉はきっと片手で事足りるほど少なかったと思う。
それでも私は満足だった。
少ない言葉の中に、他の大人から感じるような見下ろした感じがなかったから。
話題に困ってただの妄想になってしまっても、春之は同じように話を聞いてくれた。
「へえ」「そっか」の中に「子どもだな」「無知だな」「飽きたな」っていう負の感情はかけらも入っていなかった。
だから私はひたすら話し続けた。
友達といれば聞いている方が多いくらいの私なのに。
話してさえいれば、春之はずっと隣にいてくれるから。
ずっと春之に隣にいてほしいから、その想いだけで私は話し続けた。