下を向いた私の視界に若村君のくたびれたスニーカーが入ってきた。
頬に添えられた冷たい手に導かれて顔を上げると、ほとんど同時に唇が重なった。


「じゃあ、また明日」

どこか諦めたような顔に見送られて、私は家へ続く曲がり角を曲がった。


若村君のキスがどうしようもなく悲しくなったのも、もうずっとわかっていた。
こんな関係は彼に対しても失礼だと思う。
もしこれが一年前なら、別れを切り出すのももう少し楽だった。

でも受験を控えた今、彼を傷つけるのが怖い。
若村君がどんなにしっかりした人でも、この時期に動揺して受験に影響しないとは言えないから。

だけどこのまま付き合って同じ大学に進んでも、私は若村君とはいられない。
それよりなら、はっきり別れた方がいい。

猶予はないはずなのに、私はいつまでもグズグズと切り出せずにいる。
若村君のためじゃない。
私が弱いせいだ。


どこから間違っていたのか。
遡ると私が生まれたときまで戻ってしまう。
だから過去を振り返っても無駄なのだ。