春之が離婚した。
私の恋を決定的にした紗英さんと離婚した。

春之が結婚したときはとてもショックだったのに、離婚したからといって単純に喜べるわけではない。

それでも間違った積み上げ方をした私の恋を根底から覆すだけの威力があった。
砂で作った滑り台は、どんなに力を込めて固めてもバケツの水一杯で簡単に崩れてしまうのだ。


春之は離婚のことを教えてくれなかった。
結婚のことだって言ってくれなかった。
そもそも人生の重大事を語るような関係じゃない。
大した話などしたことがない。
連絡先も知らない。
春之のことなんてほとんど何も知らない。

何も知らないのに、私の気持ちは春之にしか向かない。


恋は『落ちる』と言う。
それは「コントロールできない」という意味の他に、「絶望の淵に落ちる」という意味でもあるんじゃないかな。

恋は誰に教えられるわけでもなく、何かと誰かと比べるわけでもなく、間違いようもなくそこに存在するものなのだ。

どんなにそこから抜け出したいと願っても、傷ついて傷つけても、どうすることもできない絶望。


生まれてすぐに春之の色に染まってしまった私は、もう上から何色をのせても春之色にしかなれないというのだろうか。



もう少しで私は大人になる。
いや、高校生でも社会人と付き合っている人はいる。
私が春之に恋をしても許されるのだ。

許されるとして、私はどうする?
私はどうしたい?

雨が降って急に風向きが変わるように、今までなかった選択肢は私の世界の色を変えた。