「なんの魚が好き?」
ウインナーとレタスだけのホットドッグをあっさり食べ終わった若村君がナプキンで手を拭きながら聞いてきた。
「クジラ。魚じゃないけどね。若村君は?」
「俺はマイワシ」
「マイワシ!?」
「地味だな!」っていう心の声がしっかり滲み出てしまった。
それに気づいただろうに、若村君は平然としている。
「魚群がすごくきれいなんだ。キラキラして。隣県の大きな水族館なら見られるよ」
テレビで紹介されるような都会の水族館でそういうのがあるのは知っている。
隣県にあるのは知らなかったけど。
「合格したら一緒に行こう」
明日の約束をするようにサラッと若村君は言う。
「まずは合格しないとね」
未来を語る若村君に、私はさりげなく現実をつきつけてしまった。
なぜか未来が怖くて。
口いっぱいにホットドッグを頬張ってもぐもぐと咀嚼しながら視線をあげると、遮るものが何もないくっきりとした青空が広がっていた。
「どうかした?」
声をかけられて、私はホットドッグを飲み込むのすら忘れていたことに気づいた。
少し焦って飲み下す。
「なんでもないよ」
「辛そうだったよ」
知らず、眉間に皺が寄っていた。
意識的に作った笑顔を若村君に向けて「大丈夫」と答える。
若村君と一緒に海を眺めながらお昼ご飯を食べている。
体調もいいし、日陰で心地よく何も不満なんてない。
ホットドッグを食べ進めようと思うけど、納得していない若村君の視線が気になってしまう。
「あんまり晴れやかな空は、なんだか悲しくなるの」
うまい言い訳が出て来ず本音がこぼれた。
若村君はじっと私を見て、「そう」とだけ言って空に視線を移した。
その横顔にさっきまでの楽しそうな表情はない。
雨が降ればいいのに、と雲ひとつない空を見て思う。
雨が降れば、悲しい気持ちにならなくて済むのに。