だいぶ小降りになってきた空を少し見上げて、若村君は自分の傘を閉じた。
そして大きく一歩踏み出して、ただ黙って立っている私の傘に入る。
私の手ごと握って少しだけ傘を下げると、その傘に押されるように若村君の顔が近づいてきた。
その動作ひとつひとつをテレビCMでも見るようにぼんやり眺めていたけれど、唇がくっつく瞬間になって後ずさってしまった。
「痛っ!」
傘と一緒に逃げたせいで、骨の一部が若村君の頭に当たってしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて当たった部分を見上げると、若村君の真っ黒な髪に小さな雨粒がキラキラと輝いていた。
そしてそれに負けないくらいキラキラした目は、ちょっと傘が当たったくらいでは変わっていない。
前向きで曇りのない、真っ直ぐな人柄そのままの強い力のある目だ。
大丈夫。
私はこの人が好きだ。
「ごめんね。いきなりだったからびっくりしただけ。━━━━━いいよ」
今度は私の方から若村君を傘の中に入れた。
確かめたことはないけど、若村君も初めてだったんじゃないかと思う。
ただ唇をくっつけるだけなのに、お互いにひどくぎこちなかった。
少し離れて、それでも間近に見る若村君の目は濡れたように潤んでいて、さっきよりも輝いていた。
「夏休みの間にどっか行かない?」
「私はいいけど、いいの?」
「一日くらい勉強じゃなくて、ただ一緒にいたい」
「・・・うん」
「じゃあ、帰るから」
いつもは私を見送るのに、そう言って若村君は背を向けた。
少しぼーっとして、傘も差さないままで足早に。
角を曲がるときに振り返って私を見ると、とても幸せそうににっこりと笑った。
若村君の姿が見えなくなって、私はようやく深く息をついた。
やっと心臓のドキドキが自覚できるようになり、今更ながら顔も赤くなる。
若村君のあんな顔を初めて見た。
私といて、彼はあんなに幸せそうに笑うのだ。
傘を伝って落ちる雨粒がきらめきを増す。
私は今幸せだ。
そして、これからもっともっと幸せになれる。
━━━━━だから大丈夫。



