いつもはすぐに別れるのに、若村君はなんだか物言いたげな視線を送ってくる。
私は特に促すことをせず、彼の気持ちが整うのをじっと待った。

「俺、志望校変えようと思う」

若村君は隣県の国立を志望している。
そこもかなりの難関なのだけど、もっと上のレベルに上げるのだろうか。

「どこに?」

「藤嶋さんと一緒のところ」

「・・・え?だって」

私が志望しているのは地元の国立。
若村君のレベルから言えば数段落ちる。
若村君にメリットがある選択じゃない。
それはつまり、私に合わせるということだ。

「ダメだよ!そんなことしないで」

「どうして?」

「だってもったいないじゃない!若村君ならもっと上だって目指せるくらいなのに!そんな人生かけるような大事なこと━━━━━」

「俺は人生をかけて恋をしてる」

うろたえる私の言葉を若村君はきっぱりと遮った。
私のピンクの水玉模様の傘と若村君の紺に一本白いラインの入った傘で少し距離があるのに、それをものともしないくらい有無を言わせぬ強い視線で。

そこまで想ってもらえる喜びと、そんなことでという怒りと、私のせいでという申し訳なさと、未来を夢みる楽しさで、完全に私の容量をオーバーした。
どういう表情をしているのか、どんな言葉をかけるべきか、どう受け取ったらいいのか、まったくわからない。