若村君と私の家は一緒に帰ることなんてできないほどまったく違う方向にある。
私は基本的に自転車通学だけど、若村君はそれも難しいほど遠くてバスを利用しているのだ。
だから雨で私がバスのときだけ、一緒に帰ることにしていた。
若村君の塾がなくて雨が降った日は一緒に勉強してそのまま私の家まで歩いて帰る。
若村君はそこからバスで帰るのだ。
一緒に帰るのは楽しくて私は嬉しいけど、一時間弱かかるから申し訳ない気持ちにもなる。
時間的にかなりロスするのに、若村君はやんわりと譲らない。
「いつもごめんね」
家の前までだと恥ずかしくて、ひとつ手前の曲がり角でいつも別れる。
「好きでやってることだから謝らないでよ。それとも迷惑?」
「迷惑なんかじゃない!私は、嬉しいよ」
受験がなければもっと素直に喜べた。
でも今の私たちにとって時は金よりずっと貴重なのだ。



