「意味のないことなんかないと思う」

「国語と、数学じゃなくて算数は使うよね。あと地理は役立つ。でもそれ以外はなくても生きられると思わない?」

「うん、思う。だけど必要なこと以外何も持たずに生きるって、むしろ茨の道じゃないかな?切り捨てたものが本当に必要じゃないって判断できる?」

今後遺伝の計算をする必要に迫られるとは思わないけど、確かに現時点で人生に必要なすべてを決定できるとは思えない。

「意味のないことなんてない。それが必ずしもいい意味とは限らないけどね」

「じゃあ今勉強することにも意味はあるの?」

「将来もっと重大な決断をたくさん迫られることになると思うんだ。その時物事を考える基盤となる知識がないと、考える取っかかりさえ掴めない。そのための今じゃないかな、きっと」

「へえ~!」

若村君の言っていることが正しいかどうかわからない。
でも、私が「嫌だ~。無駄だ~」ってただぼんやり思ってることに対して自分なりの答えを持ってることが素直にすごいと思った。

「じゃあバスケットボール選手になるわけでもないのにバスケットをする意味は?」

「それは単純に好きだからだよ」

カラッと若村君は笑った。

「無駄を本当に省くんだったら、恋愛なんてしないで出席番号順に結婚させたらいいじゃない。種の保存にはそれで十分だもん。無駄や余分に思えるものの中に、大事なものが含まれてると思わない?」

「思う」

無駄を省いたら、私の人生ほとんど残らない。
恋をすることとエジプトの歴代王朝を暗記することを同じラインには乗せられないけど。


若村君はプラス思考というより、前向きな人なんだ。
苦しいことを苦しいと受け止めながらも顔を上げられるような。


うん、大丈夫。
私はこの人のことがちゃんと好きだな。