春之と二人で夜宮に行くのは初めてだった。
「いってらっしゃい。あいちゃん、いっぱいおねだりするといいよ!」
紗英さんの笑顔に見送られて外に出る。
私が大人の女性だったら、こんなことはできなかっただろう。
ちらほらと親子連れが神社へと向かう流れに、私と春之も加わる。
私より小さな女の子がレース付きの浴衣を着ていて、私も浴衣がよかったなと思った。
ただのTシャツにデニムのショートパンツ。
露出は多いのに色気はなく、せめてスカートだったらよかったのにと後悔した。
神社の石段に着くと、春之はさっさとそれを上り始めた。
幅があまりなく降りてくる人もいるため、私たちも一列にならなければならないのだ。
私も後に続いたものの、当たり前だがスピードが違う。
数段春之と距離が空いた途端に、私を追い越したカップルにすっと入り込まれてしまった。
上り終えた春之の背中が視界から消える。
私は残りの階段を駆け上りたかったけど、今度はカップルが邪魔でスピードを上げられなかった。
階段の上を見上げると、目の前にカップルの手が見えた。
ただ手をつないでいるのではなく、指と指をからめるようにしている。
指先が少し白くなっていて、強く握り合っているのだとわかった。
その手を見つめながらじりじりと石段を上りやっと一番上に着いた途端に、きゅっと手が引かれた。
「よかった。迷子になるところだった」
まるで自分が迷子だったみたいに、春之は安心した笑顔で言った。
少ししっとりした大きなあたたかい手。
手をつなぐというよりも、私の小さな手はその手のひらの中にスポンと収まって「持たれている」といった感じがする。
さっきのカップルのようにもっと親密に手をつなぎたくても、物理的に難しいほど私の手は小さかった。



