まだまだ背の低い私が紗英さんを見上げると、彼女の後ろには雨の気配すらない真っ青な青空が広がっていた。
気温が低いせいでいつもより澄んだ空は雲ひとつなく、ポリバケツと同じくらい濃い色をしている。

そんなちょっとびっくりするくらい晴れた空を背景に、紗英さんがにっこりと笑った。


きれいだなー、と思った。
内側から幸せがあふれている。

私は春之の奥さんを、とてもきれいだと思ってしまった。


きれいなものを見たのに、私の心はどんどん沈んでいった。
それがなぜなのか、当時の私にはわからなかった。


春之と紗英さんはまた階段を降りはじめた。
次の人が花びらを撒いたのを見て、私はやっと自分がやり忘れてしまったことに気づいた。
手つかずのままの籠をどうしたらいいのかわからず、とりあえず空にしなければいけないと籠を逆さにして中身を階段にぶちまけた。


一カ所だけドサッと積もったピンクの花びらは、そのかわいらしさに似合わず毒々しく見えた。