私たちはあのシンデレラの階段の両脇に立たされて、ピンクの花びらが入った小さな籠を渡された。
これから新郎新婦が出てくるから、彼らに向かってその花びらを撒くのだという。

〈新郎新婦〉が春之と紗英さんのことだと、私はやっと理解していた。
これは〈お祝い事〉で、「おめでとう」と声をかけて花びらを撒くのだ。


チャペルの扉が開いて、腕を組んだ春之と紗英さんが出てくる。
式の間の少し緊張した顔とは違って、紗英さんは満面の笑みを浮かべている。
春之も私が大好きなおだやかな笑顔をみんなに向けていた。

ゆっくり降りてくる二人に向かって、みんな笑顔で「おめでとう!」と声をかけ花びらを撒いている。
肩や頭に花びらをつけた二人は、笑顔で「ありがとう」と答え、またゆっくりと階段を降りる。


いよいよ私の前に二人が来た。
生来真面目な質の私は、自分の気持ちはともかく周りの大人と同じことをしなければいけないという義務感だけで、「おめでとう」と言葉をかけた。

「ありがとう」

やさしいやわらかい声で春之が言う。
すると春之の向こうから紗英さんがひょこっと顔を覗かせた。

「もしかして、あいちゃん?」

春之やその家族から私のことを聞いていたのだろう。
〈親戚の女の子・あいちゃん〉として。
春之側の親族で幼い子どもは私一人だったから、紗英さんはすぐに私が藤嶋あいであるとわかったのだ。

「・・・はい」

「聞いていたとおりとってもかわいいね。今日はどうもありがとう」