生まれて初めて入ったチャペルはこちらも真っ白でかわいらしい印象だった。
壁も天井もイスも真っ白。
バージンロードはガラス張りになっていて、その下にはこれまた真っ白なバラが敷き詰められている。
正面には壁とガラスとが十字架の形に組まれていて、外から入る自然光でその十字架が輝いて見えるような造りになっていた。

いくら〈おひめさま〉を卒業した私でも、こんなロマンチックな場所にいて胸がときめかないはずはない。
口をポカンと開けたまま突っ立っている私を母がぐいぐい引っ張って席に座らせた。

バージンロードより右側の、前から5列目くらいの位置だった。


母は私と兄を奥に座らせようとしたけれど、光る十字架と床下の白いバラをもっと見たくて、一番バージンロードに近い位置に座らせてもらった。


見飽きることなく床と正面をキョロキョロしているうちに席は埋まり、ほどなくして入り口からカツカツと誰かがバージンロードを歩いてきた。


真っ白な衣装を着たその人が春之だと、最初はわからなかった。
やわらかい髪の毛がベタベタと固められて、変なキラキラした粉までつけられていたからだ。

だけど、そんなカッチリした衣装もいつもの猫背で台無しにする後ろ姿は、間違いなく春之のものだった。


ここにきて、私は初めてこれは異常事態だと気づいた。

イスでたった5列分。
走れば数秒とかからない春之との距離が、ものすごく遠いのだ。

いや、違う。
例え遠くてもただの距離の問題ならば足を進めればたどり着ける。
私が春之のところに、隣に行ってはいけないのだ。


非日常感で興奮していた気持ちが冷え、顔から表情が抜け落ちた。

決して私の方を見ない春之の後ろ姿をじっと見つめながら、私は精一杯何かを理解しようとしていた。
けれど私が理解しようとした何かは、チャペル全体を包み込む大音量の音楽にかき消されてしまった。