「塔子、待たせたでおじゃる。……もう本日の執務は終了したので、すぐに帰れるでおじゃるよー」


 いそいそと近づいてきたマロさんが、ニコニコ笑顔で塔子さんのお腹に優しく話しかけた。


 妻のお腹が日々大きくなっていく様子を見守るマロさんは、本当に幸せそう。


 周囲から受けてる理不尽な仕打ちの苦労なんて、みじんも感じさせない。


 実際のところは、けっこう大変なんだろうな。いくら塔子さんの援護射撃があるとしても、直接の矢面に立たされてるのはマロさんなんだしさ。


 でも彼はそんなグチも不満も一切口に出さず、身重の奥さんをいつも気遣っている。


 マロさんと塔子さんが笑顔でお腹の赤ちゃんに話しかけてるのを見ると、心がほっこりしてくるんだ。


 安心するんだよね。


『幸せ』ってやつは、こうしてちゃーんと存在してるんだなぁって。


「典雅様、凍雨さんとセバスチャンはまだですの?」


 ふたりの様子を優しい表情で眺めていたお岩さんが、自分のフィアンセと執事の様子を尋ねた。


「永久様がお籠りになって以来、ふたりの仕事に支障はでていませんかしら?」


 ……そう。実は門川君は今、『お籠り』している状態。


 さっき言った『メンドくさい状態』ってのは、このことなの。


 彼はこの数日間、道場の中に閉じこもってしまって、全然出てこないのだ。


 いや、別に気に食わないことがあって、拗ねて引き籠ってるってワケじゃなくて。


 門川君は今、『アレ』をやってる最中なんだよ。


 なんて言ったっけ? えーっと……。


「め、迷走中?」


「……アマンダ、迷走じゃなくて、『瞑想』ですわ」


 あー、そうそう。そうだった。めいそう瞑想!


 今回の事件で神の一族と現世が隔絶されてしまったことに、彼は大きな責任を感じたらしい。


 自分の力不足を猛反省して、こんなことを言い出したんだ。