「そして成重様は、異界へ通じる『道』の存在を記した文献も、偶然に見つけ出したのです」


「そのふたつの文献から一連の計画を練り出し、密かに実行してきたわけか。敵ながらアッパレじゃのぅ」


 地味で目立たなかっただけで、もともと頭はすごくいいんだろう。


 そうでなきゃ座り女の事件から続くすべての事柄を、誰にも悟られないように裏から操れるわけがない。


 水晶さんの死が、地味男の中に眠っていた優秀さを目覚めさせてしまったんだ。


 彼が幸せなままなら、きっと死ぬまで開花することはなかったろうに。


 皮肉だと思う。


 ……いや、悲劇だ。


「しかしよくもまあ、そう貴重な文献の発見が続いたものじゃ。それがなければ、あの男もこんな大それた計画は思いつかなんだろうに」


「はい。だからこそ成重様は確信したのです。これは自分の『天命』であると」


「天命?」


「一度の奇跡は偶然でも、二度も重なればそれは必然。自分が事を起こすことは、神に定められた使命であると言っておられました」


「妄信する者が最終的に行き着く場所じゃな。『神』にかこつけて、すべてを正当化しよるわい」


「この計画の最終段階では、どうしても水絵巻が必要です。成重様は、常世島の調査にかこつけて、水絵巻を手中に収めるはずでした」


「それを、僕が邪魔したんだ」


 それまでずっと黙って聞き役に徹していた門川君が、不意に口を挟んできた。


 ようやく話に絡み始めてきた門川君に、絹糸がチラリと視線を走らせながら応える。


「ふむ? 邪魔?」


「ああ。正確に言えば僕と水園殿が、だ」


「どういうことじゃ?」


「水園殿が水絵巻を破壊しようとしていた現場に、偶然に僕が鉢合わせたんだよ」


「はあ!? 破壊じゃとお!?」


 絹糸が目を丸くして、素っ頓狂な声を出した。