「不思議で変わった世界ですけど、天内さんにとってここは大切な場所なんですよね?」


 凍雨くんも、興味津々な目をキラキラ輝かせながら町を眺めている。


「ボクもね、たまにですけど、あの氷に閉ざされた土地の景色を思い出すことがあるんです。思い出したくもない記憶ばっかりなのに」


 凍雨くんは、生まれて物心ついたときからずっと雪と氷の地に閉じ込められていた。


 彼にとっては、その地が生まれ故郷なんだ。


 好きとか嫌いとか、そういうのとは別にして、自分が生まれて育った場所っていうのは、誰にとっても特別なものなんだろう。


 そんなことを考えながら、あたしたちはジグザグと不規則な方向へ進んで行った。


 と言っても、行ったり来たり右へ左へ移動しているうちに……けっきょく進んでんのか後退してんのか、もーワケ分からん!


 こんなん、やっぱり絹糸じゃないと案内なんて絶対に無理だよ。


 ウッカリと山に迷い込むような人が現れないのも、うなづける。


 それでもいつの間にかアスファルトの歩道が土の道になり、左右に木々が増えてきたなーと思ったら、あたしたちは気がつけば山道を歩いていた。


「無事に到着したようじゃな」


「わー、懐かしい! でも理屈が分かっても、やっぱり町の中にこんな大きな山があるのって不思議だー」


「わたくしたちにとっては、この自然な風景の方が馴染んでホッとしますわね」


「ボクもです。こっちの世界は石ばっかりでしたから」


「じゃがここは特殊な場所だということを忘れるでないぞ? はぐれるなよ?」