それから、俺は仕事を理由に病室を出た。

だけど、実際、仕事まではまだ少し早く、本当はあの空気が耐えられなくて出てきた。

朱鳥のあの悲しそうな表情を俺が作ったと思うと、とてつもない罪悪感に襲われた。

でも、それが俺の仕事だから……

患者さんに辛い思いをさせても、病気を治す。

治ったあと、また笑って暮らせるように、今だけは辛いのも我慢してもらう。

そんな仕事。

だから…仕方ない…………

そう、無理やり自分に思い込ませて、俺は仕事を始めた。

お昼頃

午前中の仕事が終わり、昼休み。

俺は、1度朱鳥の様子を見るために病室へ向かった。

コンコンッ

ガラッ

「朱鳥ー、調子どう?」

病室に入ると、朱鳥は悲しそうな表情でお昼ご飯の乗ったトレーをジッと眺めていた。

そのお昼ご飯は、ほとんど減っていない。

唯一、ゼリーだけが何口か食べられていた。

それでも、一口か二口だ。

「朱鳥、食欲ない?」

「……た…………………ない」

「え?」

そう言うと、朱鳥は涙をポロポロと零し始めた。

「…食べれない……食べたいけど…出来ない…………」

「食べれないの?」

そう言うと朱鳥は、涙を零しながらコクンと頷いた。

泣いている…ということは、朱鳥も食べたい意思はあるみたいだ。

だけど、きっと副作用の吐き気とか、他の具合悪さで食べることも辛いんだろうな……

「朱鳥、飲み物とかなら飲める?」

コクン

「わかった。じゃあ、今ストロー付きの飲み物持ってくるね。」

そう言って、俺は朱鳥の手を1度ギュッと握ってから病室を出た。