コンコンッ

「はーい」

ガラッ

「朱鳥ー、調子どう?」

「うん!大丈夫だよ!!元気!!」

「そっか。良かった。」

愛依ちゃんと朱鳥が仲直りした日の夜、俺は回診の為に朱鳥の病室に来ていた。

いつも通り、1通りの診察を終える。

「うん。いつもと同じで大丈夫だね。」

「うん!でも、今日はいつもよりも元気だよ?」

「それは、気分の問題じゃない?今日、仲直りしたから、きっといい気分なんだよ。」

「そっか!それもそうだね!」

「うん」

朱鳥は、本当に元気そうで、満足そうな笑顔を浮かべていた。

でも、今日この病室に来たのは、回診の為だけじゃなくて、3日後の治療の事を話す為というのもあったため、これから、この朱鳥の笑顔を壊すことになるのは、覚悟していた。

「朱鳥」

「ん?なあに?」

「あのさ、今後の治療のことなんだけど…」

「え……」

一気に朱鳥の顔から笑顔が消えていく。

「話しても、いい?」

「…うん」

「……あのね、朱鳥は今まで治療頑張ってきたよね?」

コクン

「うん。俺も朱鳥が頑張ってきたのは知ってる。……でもね、効果が一番よく見られたのは一番最初の治療だけでね…その後のは、あんまり効果が見られないんだ……」

「…え………………」

「……だからさ、次の治療は、いつもより少しだけ強い薬を使う事にしたんだ。」

「………………」

朱鳥の表情はどんどん曇っていき、朱鳥は少し俯いてしまった。

「…強い薬を使うから、その分きっと、副作用も大きいと思う。……それに、免疫力もかなり落ちちゃうから、次の治療は無菌室で行うよ」

「……………わかった…」

朱鳥の頭を撫でる。

すると、朱鳥はポロポロと涙を流した。

「…楓摩…………私、馬鹿だよね……グスッ………私、すっかり、病状は良くなってるって…勘違いしてた…………。きっと、もうすぐ退院できるって思ってた……」

「………………」

「……そっか………そうだよね…。私、生きれる確率より、死ぬ確率の方が高いんだっけ…………楓摩、言ってたもんね…。」

「っ!!…………」

そんな事ない!!

そう言いかけて、俺は口をつぐんだ。

だって、そんな事あるんだから。

朱鳥の言っている事は正しい。

…俺だって、病名を宣告した時に言ってたじゃないか。

「楓摩、私、いつかは元気になれる?いつかは、この病気も治るの?」

俺はそこで、自信をもって、"うん!!"という事ができなかった。

代わりに、目から情けない涙が出てきた。

「……朱鳥…………ごめん。ごめんな。…俺が力不足なばかりで………」

「…楓摩……」

「………俺が、もっと優秀な医者だったら、もっと、朱鳥の事守ってやれたら……朱鳥は、こんなに辛い思いしなくても良かったかもしれないよな…………」

朱鳥の主治医が、俺じゃなくて他の優秀な先生だったら、もしかしたら、もう、とっくのとうに治っていたのかもしれない。

そう考えると、本当に自分が情けなくなってきた。

「……ごめんな…………朱鳥…」

「っ!!…違うっ!!楓摩は……楓摩は悪くないっ!!………悪いのは…私の体だから。………だから、そんなに自分を責めないでっ!!」

それから、俺たちはしばらく抱き合って、お互いに気持ちをぶつけ合った。