シャワーを終えて、髪を乾かしてからリビングに戻ると、ひかりはソファに腰かけ、静かに本を読んでいた。足音に気付いてレオを見ると、ひかりの表情は和らいだ。レオはそっと、ひかりの隣に腰を下ろす。

「何読んでるの?」
「好きな作家さんの新刊だよ。もうちょっと前に発売してたんだけど、忙しくてなかなか開けなかったの。でもようやくひと段落したから。」

 さらりと揺れたひかりの髪はまだ少し濡れていた。それに気付いて、レオは口を開く。

「あっもしかして、僕がシャワーに行っちゃったから髪乾かせなかった?」
「あ、ううん。レオくんの次でいいやって思ってたし、大丈夫だよ。使い終わった?」
「うん。」
「じゃあ私も乾かそうかな。」
「ひかりちゃん。」
「ん?」

 今日一番したいことはこれじゃないけれど、これもやってみたかったことだった。

「ひかりちゃんの髪、乾かすのやりたい。」
「え?」
「ひかりちゃんが嫌じゃないなら、やらせてくれる?」
「い、嫌なんかじゃもちろんないけど…。どうしたの?」

 少し心配そうにレオを見つめるひかりの目にはとことん弱い。それを知っているから、レオは潔く白状した。

「…今更なんだけどね、ひかりちゃんの彼氏なんだっていう実感が欲しいんだ。」

 髪を乾かすことが彼氏の役目がどうかは、一般論としてそうなのかどうかすらわからない。ただ、思いが通じ合ったというのに、どう距離を詰めたらいいかわからずにまごついて、前のままでいたいわけではない。
 触れていいのならば触れたい。前よりもずっと自然に。距離ももっと近付きたい。

「…私も同じこと、考えてた。彼女っぽくできてるかなって。これが彼女っぽいかはわからないけど、レオくんの好意に甘えてもいいかな?」
「それって…。」
「髪、乾かしてもらってもいい?」
「うん!ドライヤー、持ってくるね。ひかりちゃんはソファーに座ってて!」

 『同じことを考えていた』、その言葉がレオに力をくれる。

(…不安だったのはきっと、僕だけじゃないんだろうな。)