*7月中旬*

 想いを確かめ合って、あっという間に1か月が過ぎた。相変わらずレオは作曲の仕事が絶えなかったり、ひかりはひかりで店舗が増えたことによってその店舗の開店作業の応援に派遣されたりしていた。いわゆる男女交際としての『付き合い』が始まっても、生活スタイルが変わることもなければ、デートに行く回数が大幅に増えたりすることもなかった。

(…私、ちゃんとレオくんの彼女らしいこと、できてるのかな?)
(…僕、ひかりちゃんの彼氏…だよね?)

 双方が名前のついたはずの関係性に疑問をもち始めた頃にはもう、夏の暑さが本格化していた。夜でもエアコンは手放せないし、風呂上がりのひかりは扇風機の前で火照った体を冷やしている。そんな時、レオの部屋のドアが開いた音がした。

「終わったぁ~!」

 大きく伸びをしながら、リビングのソファに向かってレオが歩いてくる。ひかりはくるりと振り返った。

「お仕事、お疲れ様!今回は長かったね。」
「ありがと。映画の曲って数が多いんだよね。時間かかっちゃったな~。」

 ふとまっすぐにひかりを見つめると、濡れた髪から滴る水、火照った頬がレオの思考を奪ってくる。

(ま、ま…待って。いや、前にもお風呂上がりのひかりちゃん見たことあるけど、な、なんか違う。)

「レオくん?」
「あっ、疲れたからシャワー浴びてくるね。」
「う、うん。疲れ、癒してきてね。」

 思いのほか足音が大きくなってしまったのは、動揺しているからに他ならなかった。前にも見ていたはずの姿なのに、前よりもずっと色っぽく見えてしまう。思わず触れてしまったら、何をするかわからない。そんな気さえした。前にあったはずの『思いを確かめ合っていない』『自分の片思い』という事実が変わってしまってから、ゆっくり二人のペースで進んでいこうとしたのに、なかなかタイミングが合わずに何も進められていなかったことに改めて気付く。

「…言ってみても、いいのかな。」

 いつかやってみたかったこと。距離を少しだけ、今、縮めてみたい。そう思ってレオは両手にぎゅっと力を込めた。