『あー…ごめんね、ひかりちゃん疲れてるのに。』
「え?」
『短く、ひかりちゃんの迷惑にならないようにって思ってるんだけど…声聞くとやっぱりだめだなぁ…。もっとって思っちゃう。』
「…私、疲れてないですよ?」
『じゃあ、もうちょっと話してもいい?』
「…はい。」

 もっとって、多分自分も思っている。どんなことでもサラリと口にするレオと違って、ひかりには迷いが多すぎる。

『ひかりちゃんはいつまで僕に敬語?』
「…っ…えっと…いつまでも?」
『えぇーそうなの?だってさ、友達には敬語じゃないでしょ?』
「そりゃあそうですけど…。」
『昔は敬語じゃなかったよ!』
「だってレオくんは小学生で…!」
『うん。だから、僕を小学生だと思って話してよ。』
「そんなの…!」

 無茶すぎる。今のレオを小学生だと思うなんて。

『じゃあ練習!僕の質問にははいじゃなくてうんって答えること。ひかりちゃん、土曜日もお休み?』
「は…うん。」
『あ、今一瞬間違った。』
「だ、だっていきなりそんなの無理で…。」
『大丈夫。ひかりちゃんは努力家だから。ね?敬語で話されると距離感じちゃうんだ。最初はそれでもいいかなって思ってたけど…。もう1ヶ月は経つし、そろそろ普通に話してほしいかなって。』

 語尾が少しだけ小さくなった。レオの声のトーンはあまり落ちない。だからこそ、少しだけ落ちたトーンに心配になる。

「…わかりました。…じゃなくて、わかった。頑張る。」
『…ありがとう、ひかりちゃん。』

 レオの声で響く『ありがとう』の言葉は、ひかりの背中を強く押してくれる。

『っ…あー…ごめん、緊急の連絡が来た。また電話するね。おやすみ、ひかりちゃん。』
「しっ…仕事頑張ってね。…おやすみ、レオくん。」

 震える声を何とか絞り出し、やっとの思いで敬語を外す。

「い…言えた…。あとは水曜日…。」

 決戦は水曜日。お洒落もそうだが、口調も気をつけなくては。